生命保険の相談を受けていると、保険金受取人が“法定相続人”とだけ書かれているケースを稀に目にします。
「まあ家族なんだから問題ないでしょ?」
と思いがちですが、
実はこの“法定相続人”という言葉、想像以上にクセものなんです。

実は、
生命保険の受取人が“法定相続人”と書かれているだけで、受取割合が均等になることは案外知られていないんです。
さらに保険会社によっては、民法とは全く違うルールが適用されることもあります。

その結果、
「思っていた人が受け取れない」
「想定外の人数で均等に分けることになった」
「受取人が亡くなっていて、手続きが複雑化した」
など、死亡後にトラブルとなるケースも少なくありません。

今日は、受取人が指定されていない場合の扱いや、受取人が亡くなっていたときにどうなるのか、さらには遺言書での受取人変更の注意点まで、実例を交えて解説します。

読んだ後には必ず、
「うちの保険の受取人は本当にこのままでいいのか?」
と見直したくなるはずです。

「法定相続人」と書いてあったらどう分けるの?

例えば、相続人が

長女
長男 の3人だった場合。

民法上の相続分は
母1/2、子どもたち1/4ずつですよね。

しかし「保険金受取人が法定相続人」の場合は違います。

母・長女・長男が “1/3ずつ” 均等に受け取ることになります。

法律の相続分じゃなくて、頭割りなんですね。ここがすでに多くの人の誤解ポイントです。

かんぽ生命では別ルールがある

さらに注意したいのが かんぽ生命 です。

かんぽ生命の場合、「法定相続人」= “民法上の相続分” ではなく、約款の遺族順位が優先されます。

例えば父が死亡したとき、相続人が
配偶者(母)
子ども2人
だったとしても、
かんぽ生命では母が全額を受け取るということになっています。

となると当然、
「母 ご本人が受取手続きをしてください」
となります。

しかし、もし母が認知症だったり、入院中で外出が難しい場合、
委任状や誓約書が何枚も必要になり、手続きが大変…というケースが実際に多いのです。

ちなみに、かんぽ生命の普通終身保険では、受取人について下記の通りになります。
普通保険約款 第27条によると、被保険者の遺族が受取人になるとされています。

そして遺族の順位は以下の通り。
1. 配偶者
2. 子
3. 父母
4. 孫
5. 祖父母
6. 兄弟姉妹
7. 生計を維持されていた者
8. 生計を維持していた者

つまり、受取人が記載されていない時、または受取人が死亡している時は、
この順位に従って保険金の受取人が決まります。

では、保険金受取人が“先に死亡していた”場合は?

これは非常に重要です。
被保険者より先に受取人が亡くなっていた場合、誰が保険金を受け取るのか?

では、最高裁判例ではどう判断されたか、ちょっと見てみましょう。

1993年(H5)9月7日の最高裁判例では
保険金受取人が被保険者より先に死亡していた場合について次のように判断しました。

★保険金受取人は「死亡した受取人の相続人全員」となる(保険法46条)
★配分は民法の相続割合ではなく、均等(頭割り)
★代襲相続人も含まれる

実際の判例では、代襲相続人も含め受取人14人に均等割で支払われたということです。

保険金が“争族の火種”になる典型例ですね。

さらに重要なのは、
保険法46条は任意規定だということ。

つまり、
保険会社の約款で別のルールが定められていれば、民法や保険法よりも約款が優先されるということです。

遺言書で保険金受取人を変更できる?

実は、できます。

ただし条件があります。

遺言で受取人変更ができる条件
平成22年4月1日以降の契約であること
★遺言書に「受取人を〇〇に変更する」という意思表示を書く
★死後、相続人または遺言執行者が保険会社へ通知する

通知を忘れたら、旧受取人に支払われてしまいます。

とはいえ、
100%確実に変更したいなら、遺言ではなく保険会社で正式に手続きするのが最も安全でのでお勧めです。

ちなみに遺言で変更する場合、最低限書くべきことは、次のとおりです。
① 保険契約日
② 保険会社名
③ 証書番号
④ 変更前の受取人
⑤ 変更後の受取人

これを書いておかないと、亡くなった後に揉める原因になります。

最後に|今すぐ「受取人欄」を確認しましょう

生命保険は、「お金に名前を付けられる」数少ない制度です。
本来は、あなたが大切に思う人へ確実に届けるための仕組み。

しかし、
受取人が死亡していたり、「法定相続人」と書いたままにしていると、
あなたの想像もしなかった人が受取人になってしまう可能性があります。

今、あなたの保険の受取人は、生きていますか?
ご両親の保険の受取人は、最新の状態になっていますか?

ぜひ一度、確認してみてください。
トラブルは「知らなかった」から起きます。
知っていれば、防げます。